今回は、心理学者ウェグナーのおもしろい実験を紹介します。
それはシロクマ実験といいます。実験結果をみるとちょっと考えさせられます。
そして、このシロクマ実験が罪悪感の癒やしのヒントにもなっています。
というわけで今回は、「シロクマ実験」の罪悪感を癒やす心理学です。
■ 「シロクマ実験」
心理学者ウェグナーの思考の抑制に関する実験で、おもしろい実験があります。
まず、実験参加者に、シロクマの生活に関するビデオを見せました。
その後、参加者を3つのグループに分けます。
最初のグループの参加者には、
「シロクマのことだけは考えないようにしてください」と指示しました。
次のグループの参加者には、
「シロクマのことを考えても、考えなくても自由にしていいですよ」と指示しました。
最後のグループの参加者には、
「シロクマのことを記憶しておいてください」と指示しました。
さて、これら3つのグループのなかで、
見たビデオの内容について、記憶の定着が最もよかったのはどのグループだと思いますか?
それは、なんと最初のグループでした。つまり「シロクマのことだけは考えないようにしてください」と指示されたグループだったのです。
このシロクマ実験では、思考を抑制しようすると、かえって、余計に思考が活発になってしまうという結果になりました。つまり、考えないようにしようとすると、逆に意識してしまって考えてしまうというわけです。
■ 考えないようにすればするほど・・・
このように、私たちは、「思い出したくない」と思えば思うほど、思い出してしまう傾向がありますよね。
例えば、もうお酒を飲まないようにしよう!と決意していたのに、コンビニのお酒の棚をふと見てしまう。
別れた恋人のことを考えないようにしようと思えば思うほど、いろいろな思い出がよみがえってきて、忘れられない。
お酒の席で酔い潰れた経験があまりにも恥ずかしくて、こうすればよかったと後悔したり、なんで自分はダメなんだろうと自己否定したりして、なかなか忘れられない。
■ ポイントは思考を抑制しないこと
「考えること」つまり思考を抑制したいときに働くのは、考えているかどうかチェックする機能であると
言われています。「シロクマのことだけは考えないようにしてください」と言われて、この指示を守ろうとするとき、「今自分はシロクマのことを考えていないよね?」「ちゃんと指示(※考えないという指示)の通りにやっているよね?」と確認(チェック)しているのです。
ですが、確認したその途端、シロクマのことが想起されてしまうのですね。これらの「考えること」と「チェックすること」の2つの機能が繰り返される結果として、ずっと考えて続けてしまうというわけです。
逆に、
「シロクマのことを考えても、考えなくても自由にしていいですよ」と指示されたグループのように、選択の余地がある場合には、思考が抑制されていません。その場合には、思考が活発になりにくく、忘れやすいと考えられます。
なお、
「シロクマのことを記憶しておいてください」と指示されたグループのように、抑制ではなく、解放してあげることも、(意外にも?)比較的忘れやすくなると考えられます。
■ 手放せないのなら、抱えて
そして、罪悪感の癒しにも、これと同じことが言えます。
罪悪感を癒そうとして、自分を許そうとしても、いつの間にか、自分を責めている。
こうすればよかった。なんでこうしたんだろう。
そういう思いから、自分が悪い気がして、自分を責め続けてしまう。
でも、
これはシロクマ実験と同じとみることもできます。
考えないようにしよう、考えないようにしようと、意識するために、かえって考えてしまうのです。
このように、罪悪感を手放さなければならない、また、罪悪感を手放さなれければ前に進めない。
そのように考えることで、かえって、自分を責めてしまう、自罰的な行動をしてしまう。
私自身もそういうことがありました。罪悪感を手放せるのなら、手放すのがいいですね。
でも、
うまく手放せないのであれば、罪悪感を抱えていくのも一つの方法です。自分を責めずに、罪悪感と上手に付き合って、罪悪感と一緒に生きていく。そんな心持ちでいると、逆説的ではありますが、いつの間にか手放せている(手放せた瞬間は気づかないかもしれませんが・・・)ことに気づくことでしょう。
ポイント
・罪悪感を抱えたままでも前に進める。
・罪悪感を手放せれば手放してもいいけれど、罪悪感を抱える時があってもいい。
参考文献
・Daniel M. Wegner. White Bear and Other Unwanted Thoughts, The Guilford Press, 1994.
・植木理恵. シロクマのことだけは考えるな!―人生が急にオモシロくなる心理術―. 新潮社, 平成25年.
参考UR L
・フリー百科事典 「ウィキペディア(Wikipedia)」皮肉過程理論
(2022年3月8日参照)
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