セルフ・コンパッションの重要な部分に、「共通の人間性」があります。「共通の人間性」とは、今あなたが抱えている苦しさや悲しみはあなただけのものではないということ。あなたのつらさは、他者のつらさにつながっている。あなたの悲しみは、他者の悲しみにつながっている。だからこそ、他者とつながり、社会とつながることが大切になるのです。
最近、このような傷ついた心のケアいうものが、トラウマインフォームドケアという概念で整理されることを学び、目から鱗が落ちる思いでした。
規範意識というのは、他人それぞれです。
規範意識が厳しく高い人もいれば、それほど気にしない人もいるでしょう。
生育歴や環境にもよることでしょう。
生きていると色々なことが起こります。
とっさの判断に迫られ、失敗してしまう。
よかれと思って、したのに(あるいは、しなかったことで)、かえってよくない結果となってしまう。
知らず知らずのうちに誰かを傷つけてしまう。
人間は不完全な存在ですから、判断、選択、行動に完璧はなく、先を完全に見通せるわけではありません。
小説家の遠藤周作は、その著作で以下のように記していました。
『私のような人間は、夜中目を覚まして、昔自分がその前を横切った人々のことを思い浮かべますが、私が横切ったために、その人の人生が別の方向に行ったしまったとか、あるいはその人に傷を与えたまま、それに気づいていなかったというようなことを思い出すことがよくあります。そういう時、その人たちに対して、自分がどうしようもないという悲しみがひしひしと心をよぎって』 遠藤周作「わたしのイエス」
道徳(モラル)心理学や発達心理学を専門とする学者ボール・ブルームもまた、このように記しています。
『私自身まっさきに思い出すのは、過去に犯した過ちだ。かつての選択の中には、今も思い出すと罪悪感で背中がむずむずしてしまうものもある(こういった話がピンとこないなら、あなたは私よりはるかにましかーよほどでたらめな人間だ)その中には、当時はよかれと思って犯した純然たる過ちもある。しかし、何が正しいのかわかっていながら、違う選択をした場合もある』 ポール・ブルーム「ジャスト・ベイビー 赤ちゃんが教えてくれる善悪の起源」
わたしたちは、大なり小なりこうした気持ちを抱えていることでしょう。
セルフ・コンパッションというケアの概念や方法があります。
そのセルフ・コンパッションの重要な部分として、「共通の人間性」があります。
「共通の人間性」とは、今あなたが抱えている苦しさや悲しみはあなただけのものではないということです。
あなたと同じように他者も何らかの形で、同じように心の傷を抱えているのです。
これは、決して「よくあることで大したことではない」とか、「あるあるだから気にしなくてよい」ということではありません。
あなたの苦しみや悲しみは、他者の苦しみや悲しみに繋がっているということなのです。
心の傷のケアについても、同じことが言えると思います。
自分は完璧ないい人間ではないかもしれないけれど、それなりの普通の人間だと思っていた。
でも、その規範意識が崩れたとき、自分を責めたり罪悪感を感じたりするのでしょう。
そんなとき、「共通の人間性」を思い起こしてみてください。
「あなたはひとりではない」ということ。
今感じているこのつらさが、自分だけが感じていると思うと余計につらくなるものです。
自分だけと思うほど、苦痛をより一層感じさせるものなのかもしれません。
でも、あなたはひとりではないのです。
あなたのつらさは、他者のつらさにつながっている。
あなたの悲しみは、他者の悲しみにつながっている。
だからこそ、他者とつながり、社会とつながることが大切になるのです。
ポイント
① セルフ・コンパッションの「共通の人間性」を思い出そう
② この自分が感じるつらさは、誰かのつらさにもつながっている
③ あなたはひとりではない
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