自分に向き合うとき,「なぜ」を「なに」に変えて,「過度の一般化」と上手に付き合おう

投稿日(Posted on): 2023年11月17日 | 最終更新日(Last Updated on): 2024年5月20日 by 河野傑

   

   

認知の歪みのひとつに,「過度の一般化」があります。

この「過度の一般化」は,自分との向き合い方において,抽象的だったり,分析的だったりするときに生じやすいです。

   

さらに,その「問い」と「答え」,あるいは,「原因」と「結果」は,自問自答しても,理解が難しく,ぐるぐると思考し,考え過ぎの状態になりやすいです。

  

つまり,反すう思考になりやすい傾向があります。

   

「なぜ?」と理由を考えると,悩みが始まる

例えば,就職試験を考えてみましょう。

あの会社で不採用だった。

この会社も不採用だった。

このように,何社も落ちてしまうことがあるかもしれません。

そこで,ふと冷静になって振り返ります。

「なぜ,落ちたのか」

「自分の何がよくなかったのだろう」

「どうすればよかったのだろう」

そこから出る答えは,

「もっと勉強すればよかった」

「面接で緊張してうまく話せなかった」など,

過去に関するもの,自分に関するものを原因として挙げるのではないでしょうか。

このような分析も,ある程度は必要かもしれません。

足りないスキルを補い,面接の練習することは,再び採用試験を受ける際に,役に立ちます。

何より,再度挑戦することは有意義なことです。

ですが,原因を追求していくと,自分の性格,自分の能力に行き着いてしまう,そんな人もいるかもしれません。

私がそうでした。

   

自分の認知スタイルを知る

就職試験だけではありません。

仕事でミスをしたり,人間関係で失敗したりすると,「自分はもうダメだ」,「自分には価値がない」と落ち込んでしまうのです。

このような認知の歪みのことを,「過度の一般化」と言います。

「一つや数個のごく少数のデータから,すべてがそうであると一般化しすぎる思考」のことです。他にも,認知の歪みには,「全か無か思考(二分法思考,白黒思考)」や自責思考,破局化思考,情緒的推論,べき思考,推論の飛躍などがあります。(『認知行動療法』下山・神村,(2016) より)

認知には,大まかに分けて,表層的な自動思考と,後述する深層的なスキーマの2種類がある。自動思考とは,出来事が起きたときに,ほぼ自動的に頭のなかを流れる考えのことを自動思考とよぶ。内面化された言葉,自己への語りかけ,セルフトークなどという言い方もあるが,これらも自動思考に類似の概念である。スキーマとは,その人特有の,一般的で包括的な考え方の癖,身に染み付いた思い込み,価値観,信念といったものである。何か,自分に関係のある出来事が起きた場合に,このスキーマが活性化され,自動思考が生み出されるのである。(『認知行動療法』下山・神村,(2016) より)

ただ,苦しさがなかったり,生活に支障がなかったりするのであれば,それは「歪み」ではなく,個性や特徴と言ってもいいのかもしれません。

   

「なぜ?」と原因を問うことは,役に立たないかもしれない

さらに,「なぜ?」と原因を問うことは,抽象化が起こりやすいものです。

なぜなら,問いが大きすぎるからです。

先の就職試験の例で言うと,

「なぜ,不採用だったのか」

「自分の何がよくなかったのだろうか」

「どうすればよかったのだろうか」

こういった問いは大きすぎて,その全貌を100%理解することは不可能です。

大きすぎるので,答えを出す私たちにとって,大きな負担になります。

加えて,手持ちの情報が少なすぎます。

会社の採用側がどう判断したのか,取り巻く状況はどうだったのか,応募者にはわかり得ない情報です。 

だから,私の脳は,大きすぎる問いに対して,少ない情報をもとに,ざっくりとした抽象的な答えを出してしまうのです。

これは,認知や思考を節約していると言えます。

さらに,答えを導くプロセスというのは,その人が持っているスキーマに依存します。

その人がそれまで考えたように,答えを出すことが多いのではないでしょうか。

このように,「なぜ?」という自分への問い方は,役に立たないことが多いです。

建設的ではない場合が多いのです。

   

「なぜ」を「なに」に変える

これまで,自分に対して「なぜ?」,「なぜ?」問うてきました。

自分の能力に行き着きました。

自分の性格に行き着きました。

自分の価値に行き着きました。

「どうすればいいんだ」,「どうしたらいいんだ」と,ぐるぐると回っていました。

では,どうすればいいのでしょう。

それは,「なぜ?」を「なに?」に変えることです。

理由ではなく,物事や行動に焦点を当てていくのです。

「どうして私はダメだったのか」ではなく,「今ここで,自分には何ができるのだろう」や「これから,私は何をしたらいいのだろう」というように問いを転換するのです。

このように,具体的に行動に焦点を当てるのです。

「どうして,私があいさつしたのに,あの人は私のことを無視するのだろう」と問うことは,自分に対して「なぜ?」を向けることになり,反すう思考のきっかけになり得ます。

ですから,「どうして?」,「なぜ?」ではなく,「私があいさつをしたとき,あの人は何をしたのだろう?」というように,観念ではなく事実をとらえるのです。

あの人は,別の方向を見ていたり,考え事をしていたりして,こちらに気付かなかったのかもしれません。あるいは,こちらの声が届かず,素通りしただけかもしれません。

   

参考文献

『うつ病の反すう焦点化認知行動療法』(2023) 大野裕監訳, 梅垣祐介・中川敦夫訳, 岩崎学術出版社.

『認知行動療法』(2016) 下山晴彦・神村栄一編著, 放送大学教育振興会.


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