外国につながる子どもの沈黙期での関わり方

投稿日(Posted on): 2023年9月8日 | 最終更新日(Last Updated on): 2023年9月8日 by 河野傑

反応がなかったり、いまいち何を考えているかわからない・・・。そんな子どもは沈黙期にあるのかもしれません。決して、先生や相手を軽視しているわけではないのです。沈黙期にある子どもたちは、状況を理解して、周囲の言葉や他者の様子などを観察して、対処しています。今回のコラムでは、この沈黙期について書いてみました。その子どもなりに新しい状況を一生懸命理解しようとして、頭を働かせていると考えると、少しその子どもに寄り添うことができそうです。

   

沈黙期 (silent period)という言葉を知っていますか?沈黙期は、第二言語を習得している子どもの観察されるもので、ある期間、その第二言語で話すことや相手からの問いかけに対する返事といった言葉をほとんど発することのない期間です。

   

アウトプットはほとんどない一方で、実はインプットをして理解に努めていたり、アウトプットのためのリハーサルをしていたりするなど、脳内ではむしろ活発にその第二言語の処理をしているものと考えられています。この沈黙期は、1年くらい続くこともあります。具体例として、乳児が言語を習得する前の言葉を発しない期間、日本人の子どもが海外の学校に転校になった時、外国につながる子どもが日本の小学校に転校してきた時などに見られることがあります。

   

さらに、短期的には登園・登校時にも見られます。保育園、幼稚園もしくは学校に着くと、すぐにおともだちのところへ行って一緒に遊ぶのではなく、周りをキョロキョロしていたり、ぼーっとどこかを見ていたり・・・。先生からのおはようのあいさつにも、聞いているのかいないのか、はっきりしなかったり・・・(実はよく聞いているし、よく見ているのですが)。こうした場面でも、沈黙期(silent period)の考え方が参考になります。家というリラックスできる場所から、保育園・幼稚園、学校という他者の目がある場所に行くというのは、大きな変化です。たのしみもあるでしょうし、苦手なこともあるでしょう。

   

外国とつながる子どもでしたら、まず最初に、話す言葉を変えなければなりません。さらに、集団行動をしたり、ルールを守らなければなりません。先生を始め、好きな子、苦手な子といった様々なコミュニケーションも求められるでしょう。こうした変化に適応するための「切り替え」をしているのかもしれません。

   

「いい子」というのは、たいてい大人にとってのいい子の場合が多いと思います。朝会ったら、「おはようございます!」 と言える。「おはよう」と言われたら、「おはようございます」とお返事ができる。「今日は元気ですか?」などの質問に、はっきり「元気です」などと答えられる。このように、ハキハキしていること、あいさつができること、ちゃんとお返事ができることなどは、社会に出てからも基本であり、だからこそ教育においても価値があるとされています。確かに、実際その通りです。

   

でも、この沈黙期にある子どもたちは、状況を理解して、周囲の言葉や他者の様子などを観察して、対処しようとする過程にあります。反応がなかったり、いまいち何を考えているかわからない・・・。たしかに、そういう子がいるかもしれませんが、この沈黙期について知っていると、そんな時でも、ゆったりと見守ることができそうです。決して、先生や相手を軽視しているわけではないのです。

   

むしろ、その子なりに新しい状況を一生懸命理解しようとして、頭を働かせていると考えると、その子に寄り添うことができそうです。幼稚園や小学校は、小さな社会です。一歩踏み込むのにも勇気がいります。家とはまったく異なる環境に入るのには、頭の切り替えも必要です。そんな切り替えに時間がかかるときがあります。その子のスピードで、時間をかけて、ゆっくりと適応しようとしているのかもしれません。

   

● 参考文献

Wikipedia ”silent period” https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Silent_period&oldid=992899605 (2023年1月13日参照)


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