イヤイヤ期を心理学の視点で見た子育ての責任やプレッシャーからラクになるヒント

投稿日(Posted on): 2023年9月7日 | 最終更新日(Last Updated on): 2023年9月8日 by 河野傑

   

2歳前後の幼児期は、イヤイヤ期と言って、子どもが反抗的に見えたり、わがままに見えたりすることがあります。そんなイヤイヤ期を脳科学や発達心理学の視点で見ると、子育ての責任やプレッシャーからラクになるヒントがあります。

   

イヤイヤ期の子育ては、大変ですよね。

2歳前後の自我の芽生えや自己主張が出てきた時期のことを、

イヤイヤ期と言うことがあります。

   

例えば、

『「ご飯の時間だから、食べようね」と言っても、

イヤ(もっと遊びたい)』

『「兄弟で仲良くおもちゃで遊ぼうね」と言っても、

イヤ(おもちゃを貸したくない)』

あるいは、おもちゃ屋さんで、

おもちゃが欲しいと延々と泣き叫ぶ。

いったんスイッチが入ると、

なかなか泣き止まないこともあります。

(お腹が空いていたり、眠かったりするタイミングと

重なってしまうときもあります)

   

親や養育者の言うことを聞いてくれないので、

困ってしまいます。

特に外出先では、人の目もあり、

途方に暮れてしまうことも多いです。

   

親や養育者に余裕のあるときは、

「おっ、いたずらかな、かわいいね」と思います。

あるいは、

「自己主張できるようになって、

大きくなったんだな」と、思います。

   

しかし、忙しいとき、疲れているとき、

他人の目があるときなどの余裕のないときは、

怒りすら覚えることもあります

(結局、後でなんで怒ってしまったのだろうと、

自己嫌悪に陥いるのですが・・・)

   

幼児期の脳の発達はどのようになっているのでしょうか。

イヤイヤ期の子どもの脳を理解する上で、

重要なのは、前頭前野と大脳辺縁系です。

   

まず、前頭前野は、

もっとも人間的な働きをする脳の部位です。

計画し、考えて、決めて行動するという機能を

担っています。

   

また、

反応を抑えたり、行動を切り替えたりする機能にも

関連しています。

哺乳類を含めて生物のなかで、

人間の前頭前野がもっとも発達しています。

   

ただし、この前頭前野は、

他の脳の部位に比べてゆっくり発達し、

もっとも遅く成熟するのだそうです。

   

この前頭前野は、

進化の過程で後から発達してきたので

新しい脳と呼ばれます。

   

次に大脳辺縁系です。

大脳辺縁系にある扁桃体が、

欲求や情動の発現に関連する重要な部位です。

   

この部位は、系統的に古いので、

古い脳と呼ばれます。

   

ここで、大隈(2017)によると、

「系統的に古い脳の方がより早く成熟し、

前頭葉のように進化の過程で後から発達した脳の領域は

ゆっくり成熟する」(p.163)としています。

   

また、明和(2019)によると、

「前頭前野の成熟が進むことによって、

辺縁系の活動がもたらす衝動的な欲求を

少しずつ抑えることができるようになってきた」(p.134)と

指摘しています。

   

つまり、人間の脳は、

お腹が空いたとか、眠いなどの本能に近いところから先に発達して、

そのような欲求をコントロールする脳は、

後から発達するということが理解できます。

   

そして、「片付けてから、おやつを食べようね(後回しにすること)」

「すべり台の順番を待とうね(待つこと)」などは、

前頭前野という新しい脳が、ある程度発達してから、

少しずつできるようになってくるのだと言えそうです。

   

また、上記のことから、「教えれば」、「○歳になれば」、

その結果すぐに、待ったり、後回しにしたりなどの

コントロールができるようになるわけでもなさそうです。

   

個人差もあり、それぞれの子どもに適切な時期があると考えられ、

またその時期にも幅があり、ゆっくりと、いつの間にか、

できるようになってくるのだと思います。

   

つまり、親や養育者が、

このように言えば通じるとか、こうすればしつけられるという、

育て方やコミュニケーションスキル、

教え方の上手下手といった技術的な要素よりも、

子どもの脳の発達のプロセスに伴って

できるようになっていく要素が大きそうですね。

   

親としては、

発達のプロセスに応じた接し方や関わり方が大切なのかもしれません。

イヤイヤ期という言葉以外にも、

この時期の子どもの特徴を示す言葉として、

第一次反抗期、魔の2歳児などがあります。

   

どれも、ネガティブですね。

こんな言葉に影響を受けるためか、

親や養育者の言うことを聞かないと、

聞き分けのない子になってしまって、

将来困るのではないかと心配になったりします。

   

自分は子育てに向いていないのではないかと、

自分を疑ったり自信をなくしてしまうこともあります。

   

また、しつけがちゃんとできていない親だと思われたら困るなど、

いろいろな心配が頭をめぐり、強く言ってしまったり、

怒ってしまうこともあるかもしれません。

   

そして後で、言い過ぎたなと後悔することもあるかもしれません。

   

少し大きくなってきたもう赤ちゃんではない幼児期の子どもに対して、

向き合い方や接し方に悩むとき、

「みんな同じですよ」、「この時期によくあることですよ」と言われても

何か釈然としないものです。

   

でも実際は、

衝動的な欲求が起こる脳の部位と、

それをコントロールする脳の部位において、

発達するタイミングや発達のスピードに「ずれ」があるから、

反抗しているように見えたり、イヤと言ってしまう

ということがわかります。

   

2歳前後の幼児期の子育ては、

イヤイヤ期と言って子どもが反抗的に見えたり、

わがままに見えたりすることがあります。

   

でも、脳科学や発達心理学では、

前頭前野がゆっくり発達していく過程で、

次第に欲求や衝動をコントロールできようになっていくことが

指摘されています。

   

だから、子育てがうまくいかないと悩んだり、

子育てに向いていないと自分を疑ったり、

育てにくいと思ったり、

しつけができていなくて世間から責められると思ったり・・・など、

親や保護者は、追い詰められていると思わなくてよいのですね。

   

切りかえができなかったり、言うことを聞いてくれなかったり、

というのは、親の育て方が原因でもないし、

親のコミュニケーション能力のなさを示しているわけでもないのです。

脳の発達の仕組みがそうなっているのです。

   

そのような発達のことがわかっていると、

親や養育者側も多少気持ちの余裕が生まれるのではないでしょうか。

   

最後に、

分野は異なりますが、最近読んだ本から引用して、

今日のコラムを終えたいと思います。

   

「人間の暮らしでいちばん大切なことは、

「一生懸命生活すること」です。

料理の上手・下手、器用・不器用、要領の良さでも悪さでもないと思います。

一生懸命したことは、いちばん純粋なことです。

そして純粋であることはもっとも美しく、尊いことです。

   

それは必ず子どもたちの心に強く残るものだと信じています。・・・」 

ーーー土井善晴「一汁一菜でよいという提案」より 

   

参考文献

脳科学辞典 渡邊正孝https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E5%89%8D%E9%A0%AD%E5%89%8D%E9%87%8E&oldid=28167  (2014)

脳科学辞典 田積徹・西条寿夫

https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E6%89%81%E6%A1%83%E4%BD%93&oldid=29791 (2015)

明和政子 ヒトの発達の謎を解く ―胎児期から人類の未来まで 筑摩書房 2019年

大隈典子 脳の誕生 ―発生・発達・進化の謎を解く 筑摩書房 2017年

土井善晴 一汁一菜でよいという提案 新潮社 2021年


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