「やりたくない」「やらない」の奥にある子どもの声──外国につながる子の学習支援


「プリント出して」

「問題文を読んでごらん」

そう声をかけても、子どもは動かない。

渋い顔で座り、鉛筆も持たない。

親としては「なんでやらないの?」と焦る気持ちが募っていく。

特に、外国につながる子どもの場合、学習に取りかかるまでの時間が長かったり、ひとりで進めることが苦手だったりする背景には、言語や文化の壁だけでなく、心理的なハードルが潜んでいることがあります。

「わからない」と言えない子どもたち

言語習得における「沈黙期(silent period)」は、第二言語習得の初期に現れる、話すことを避ける期間のことを指します(Krashen, 1982)。

この時期を経験した子どもは、“わからない”と言えないまま、うなずいてやり過ごすことが習慣になることがあります。

こうした子どもは、学習に対して「わからないけれど黙っている」ことを選び、本当は助けが必要な場面でも「わかっているふり」をして、なんとかやり過ごしてきた可能性があります。

それは一種の「社会的スキル」であり、「人間関係の安全確保」でもあったのです。

「やりたくない」のではなく「やれない」

心理学者ロス・グリーン(Ross W. Greene)はこう語ります。

“Children do well if they can.”(子どもは、できるならうまくやっている)

これは、子どもの行動の背景には「スキルの未熟さ」や「環境への適応困難」があることを前提とした理解です。

つまり、「やらない子ども」を「やる気がない」とみなすのではなく、「今はまだやれる状態にない」と捉える視点が重要です。

自己効力感を育てる関わり

心理学者アルバート・バンデューラ(Bandura, 1997)が提唱した**「自己効力感(self-efficacy)」**は、
「自分にはこれができる」という信念のこと。

この感覚がなければ、人は行動を起こすことが困難になります。

外国につながる子どもは、日常的に「わからない経験」を積み重ねてきたことで、「どうせできない」「間違えるのが怖い」というブレーキが無意識に働くことがあります。

そのため、「少しだけできた」体験の積み重ねと、大人からの肯定的なフィードバックが、自己効力感の回復と成長に不可欠です。

自律性を尊重する支援

自己決定理論(Self-Determination Theory)を提唱したデシとライアン(Deci & Ryan, 1985)は、
人が内発的に動機づけられるためには、以下の3つの心理的欲求が満たされることが重要だと述べています:

  1. 自律性(自分で選んでいる感覚)
  2. 有能感(できたという感覚)
  3. 関係性(支えてくれる人とのつながり)

「宿題やりなさい!」と指示されて動くよりも、
「どれからやる?」「一緒に考えようか」と選択肢を渡される経験が、子どもの学習意欲を育てます。

おわりに

外国につながる子どもが学習に取りかかれないとき、その背景には、「わからないと言えなかった経験」や、「できないと思い込んでいる気持ち」があります。

だからこそ、無理に「一緒にやろう」と引き出すのではなく、ただ「そばにいるよ」と静かに伝える――そのまなざしは、子どもの心に届く大切な支えとなります。

「やらない」の奥には、「やりたいけれど怖い」「できるかどうか不安だ」という、繊細な心の声があるのかもしれません。

「やらない」の奥にある「やりたいけど怖い」「できないかもしれない」の声に、耳を澄ますような関わりこそが、子どもの心の安全基地となり、やがて「ひとりでできるかも」と思える足がかりになります。

参考文献

  • Bandura, A. (1997). Self-efficacy: The exercise of control. New York: Freeman.
  • Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). Intrinsic motivation and self-determination in human behavior. New York: Plenum.
  • Greene, R. W. (2014). The Explosive Child. HarperCollins.
  • Krashen, S. D. (1982). Principles and Practice in Second Language Acquisition. Pergamon.フォームの始まり

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