外国につながる家族の言語環境と課題
「外国につながる」家族において、使用する言語に関する方針の違いは、家族内でしばしば議論の的となります。
例えば、子どもがどの言語を話すべきか、どの文化に親しむかについて、夫婦で長い時間をかけて話し合ったという経験を持つ家庭も少なくありません。
我が家では、子どもたちは日本の保育園や学校通いながら、家庭内では主に英語を使い、日本語は補助的に使用することを選択しました。
家族で会話をする際には、日本語が十分ではない妻に配慮して、全員が英語で話すことで、母親の理解や参加できるようにしています。
しかし、家庭外の日本語環境で得た経験を家庭内の英語に翻訳すること、あるいはその逆を行うことは簡単ではありません。
例えば、学校の体育の時間におけるキックベースの話を、ルールや体験の詳細を含めて英語で説明するのは容易ではありません。
語彙や表現力が発達段階にある子どもにとって、これらの翻訳作業は大きな挑戦となります。そのため、私たち親も子どもの話を補足したり、背景を説明したりしながら、子どもの思いや意見が表現できるよう支援しています。
心理学理論を活用した支援アプローチ
このような家庭環境は、心理学的な視点からも重要な課題を含んでいます。
以下では、この状況に関連する心理学の用語と理論を用いて考察します。
1. バイリンガリズム(Bilingualism)
バイリンガリズムは、2つ以上の言語を使用する能力を指し、順序バイリンガリズム(Sequential Bilingualism)と同時バイリンガリズム(Simultaneous Bilingualism)の2つのタイプがあります。子どもが家庭内で英語を学びながら、日本語環境で育つ場合、これらの言語間の相互作用が認知発達や社会的スキルに影響を与えることが研究で示されています(Cummins, 1979)。子どもたちが自分の思いを2つの言語で表現する中で、言語スイッチや文化的アイデンティティの形成が進むのです。
2. 社会文化理論(Sociocultural Theory)
Lev Vygotsky が提唱した社会文化理論では、子どもの発達は社会的相互作用を通じて進むとされています。親が子どもの日本語の話を英語で補足したり、背景を説明したりする行為は、まさにこの理論が示す「発達の最近接領域(Zone of Proximal Development, ZPD)」における支援に該当します。この支援は、子どもが自分の力で達成できる範囲を広げる役割を果たします。
3. エコカルチュラル理論(Ecocultural Theory)
エコカルチュラル理論(Berry, 1997)は、家族の文化的選択や言語方針が、家庭環境や社会的文脈によって形成されることを示します。日本語と英語のどちらを優先するかという選択も、家庭内の価値観や地域社会の影響を受けています。この理論を応用することで、親がどのように子どもに適応力を育むかを考える指針となります。
家庭内での具体的な支援例
こうした理論を背景に、我が家では子どもの言語発達や心理的安定を促すために、いくつかの具体的な工夫をしています。まず、子どもの伝えたい気持ちを最優先に考え、文法の正しさや説明の正確さに過度にこだわらないようにしています。また、子どもが日本語と英語を自由に切り替えながら話すことを尊重し、それが可能な家庭環境を整えています。
さらに、日常生活の中で小さな成功体験を積み重ねられるよう、例えば「みんなで英語の絵本を読む」「学校での出来事を英語で共有する」といった活動を取り入れています。これにより、子どもたちが言語能力を楽しみながら自然に発達させる機会を提供しています。
信じることで前進する
「外国につながる」家族における言語や文化の選択には、迷いや葛藤がつきものです。しかし、「自分たちの選択を信じる」という姿勢を持つことで、家庭内の調和を育むことができます。親が自分たちの方法を信じ、子どもの成長を温かく見守る姿勢は、子どもにとっても安心感を与えるでしょう。
多文化理解とともに、子どもの発達にどう寄り添っていくかという視点も大切なのだと思います。外国につながる子どもたちの未来を支えるために、私たちは何を信じ、どのように歩むべきかを一緒に考えていきましょう。
参考文献
- Cummins, J. (1979). Linguistic Interdependence and the Educational Development of Bilingual Children. Review of Educational Research, 49(2), 222-251.
- Vygotsky, L. S. (1978). Mind in Society: The Development of Higher Psychological Processes. Harvard University Press.
- Berry, J. W. (1997). Immigration, Acculturation, and Adaptation. Applied Psychology: An International Review, 46(1), 5-34.
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