子どもの適応よりも関係性を育てる


親の選択から感じる責任

外国につながる子どもたちが日本で育つことには、さまざまな背景があります。セミナーで、ある講師が「親の仕事の都合で日本に来た子どもが、日本語ができないことで学習や生活で不利益を被るのは不公平であり、かわいそうだ」と話していました。この言葉は、日本語に不自由な子どもたちが直面する現実の厳しさを突きつけます。特に、日本での生活は親の決断によって始まったものであり、子ども自身が望んで選んだ道ではないという事実が印象深いです。

このように、「親が選択した結果、子どもに苦労をさせてしまうかもしれない」と感じることは、外国につながる子どもを持つ親であれば少なからず抱く不安かもしれません。しかし、同時にその不安は、「子どもが周囲に溶け込み、日本の社会に適応できるように、自分がもっと努力しなければならない」「自分の判断が悪かったのではないか」といった「強迫的な責任感」や「親自身の葛藤」につながることもあります。国際結婚をして日本で子育てをしている親であれば、こうしたプレッシャーは特に強いかもしれません。

親が抱える「強迫的な責任感」と「子どもとの関係性」

子どもが異なる文化や言語の中で戸惑ったり苦労したりする場面を目の当たりにすると、親は「自分がもっと何かできたのではないか」と感じ、強い責任感に駆られることがよくあります。特に「親の都合で日本に住むことになった」「国際結婚をしたのは親の判断であり、子どもがそれによって不自由な思いをするのは不公平だ」と感じる場合、親は自らに厳しくなりがちです。

心理学でいう「自己高揚の欲求」や「承認欲求」は、親が自分の選択に自信を持てなくなるときに影響を与えることがあります。自分の選択が子どものためになっていないと感じるとき、親は無意識に自分を「もっとよい親であるべきだ」と厳しく追い詰めてしまうことがあります。しかし、過剰な責任感はかえって子どもとの距離感を縮めるのではなく、親子の関係性にプレッシャーを生じさせ、双方の心理的な負担を増やしてしまうことがあります。

子どもを支えるために必要な「共感」と「受容」

「強迫的な責任感」にとらわれる親にとって大切なのは、「自分がすべてを完璧にする必要はない」ということを受け入れることです。子どもにとって大切なのは、親が心を込めて子どもを見守り、安心して寄り添うことであり、親が「完璧な答え」を持っているかどうかではありません。子どもが異なる環境で戸惑いや不安を抱えたとき、親が一緒に感じ、共感し、必要なときにはサポートを受けられる環境を作っておくことが、親子にとって心の安定をもたらす基盤になります。

心理学でいう「安全基地」の概念が示すように、親が「いつでも戻ってきていい場所」であると感じられることが、子どもにとっての最大の安心感につながります。異文化の中で自分を築いていく中で、時には心細くなり、つまずくこともあるかもしれませんが、親が「一緒にいる」というメッセージを送り続けることこそが、子どもにとっての心の支えになるのです。

日本社会への適応を「急がない」勇気

異なる文化的背景を持つ子どもたちが、日本社会に適応するための時間は人それぞれです。社会に適応することももちろん大切ですが、子どものペースを尊重することが、それ以上に重要です。外国につながる子どもが、自分のバックグラウンドや母国の文化も大切にしながら日本社会に馴染んでいくためには、親が「適応を急がない」ことがかえって良い結果をもたらす場合があります。

親が焦らずに構え、子どもの成長に合わせて適切にサポートを行うことで、子どもは「自分のままでよい」と感じられるようになります。こうした「無条件の受容」を通じて、子どもは「自分には親からの理解と支えがある」という自己肯定感を築きやすくなり、自己効力感を持って困難を乗り越えやすくなります。

子どもと親が共に成長していける道

外国につながる子どもたちが日本で健やかに成長するために、親が自分に課した過剰な責任感やプレッシャーを和らげることが大切です。自分の選択が子どもに影響を与えていることに気づき、「自分がもっと努力しなければ」と焦る気持ちが湧くかもしれません。しかし、親が自らの選択を受け入れ、できる限りのサポートをすることで、子どもは「自分は大切にされている」と感じ、異文化の中でも健全な自己肯定感を持って成長していけるのです。

「完璧な親である必要はない」「自分のままでよい」という思いを、まず親自身が抱き、それを子どもに伝えることが重要です。親子が共に支え合い、少しずつ成長していける関係性が築けたとき、子どもは異なる文化の中でも力強く生き抜く力を身に付けていけるでしょう。そして、親と子が互いに寄り添い、学び合うことで、親子ともに多文化を大切にしながら前向きに歩んでいけるはずです。


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