あなたの弱さと私の弱さをつなぐもの

投稿日(Posted on): 2023年9月6日 | 最終更新日(Last Updated on): 2023年9月6日 by 河野傑

   

「責任なんかより、もっと大切なことがあるよ。この人生で必要なのは、お前の悲しみを他人の悲しみに結びあわせることなのだ。」

――遠藤周作「わたしが・棄てた・女」より

   

   

セルフ・コンパッションには、3つの重要なポイントがあります。それは、自分への優しさ、共通の人間性、マインドフルネスです。今回は、このなかの「共通の人間性」について取りあげて、理解を深めてみたいと思います。

   

「共通の人間性」とは、人間は誰でも欠点がありながらも成長を続ける存在で、人生の中で誰しも失敗するし、間違いを犯すこともあるし、困難なことに直面することもあると認識することです。――クリスティン・ネフ著・富田拓郎監訳「マインドフル・セルフ・コンパッション ワークブック」より

   

これは、一見して当たり前に見えますが、忘れがちなことです。うまくいかないことに苛立ち、思い通りにいかないと疑ってしまうのが私たちです。与えられた環境や周囲への感謝や満足よりも、むしろ自分自身の足りなさに目がいってしまう。そして、厳しい規範を自分自身に課し、自分への過度のプレッシャーをかけてしまうものです。つまり自分を否定したり、責めたりしてしまうのです。

   

   

曽野綾子さんのエッセイにこのような文章がありました。

「それは、どのような外界の変化にあっても自分の非力を知り、それが自分に命ぜられた神の意志だと思い、しかも自分のなすべきことをし続けていれば、思う通りにできない悲しみはあるとしても、そこで死ぬほど追いつめられたとは思わない、という生き方であろう。(中略)何より重大なのは、神の前にある時の人間の非力を、骨身にしみて思うことである。そしてこの無力さの認識は、おもしろいことに、人間を絶望もさせなければ、自暴自棄にもしなければ、心理的に締め上げもしない。(中略)むしろ共通の無力感こそ、人間を解放するのである。これは信じがたいことだが、事実である。」――曽野綾子「私を変えた聖書の言葉」より

   

曽野綾子さんの言う「共通の無力感」は、セルフ・コンパッションの「共通の人間性」に相当すると考えてよさそうです。さらに、「共通の人間性」は、人間の限界や無力さといった「人間の弱さ」を示しているかのようです。

   

   

ティム・デズモンドはこのように書いています。

「こんな悲劇が毎日どこかで起きている。全てを防ぐことはできない。できるものならそうしたいが、どうしても不可能だ。」自分のなかであまりにも深く苦しんでいるのが、周りの人たちを助けたがっている部分だとわかりました。(中略)「周りの人たちを助けたいだけだね。そして、状況をよくするために何もできないのではないかと恐れている。無力に感じているんだね。」それこそ必要としていた言葉でした。認識しなければいけなかったのです。つまり、自分のなかにある嫌悪感が、人々を助けたい願いと、今の状況を本質的に変える力がないかもしれないことを受容しなければいけないことからきていました。(中略)人間は苦しむ存在で、幸せになりたくて、でもたいがいどのようにして幸せをみつけたらよいのかがわかりません。」――ティム・デズモンド著・中島美鈴著「セルフ・コンパッションのやさしい実践ワークブック」より

   

   

ティム・デズモンドが言う「美しさ」とは、「助けたいけれど、何をすればいいのかわからない」「幸せになりたいけれど、どうしたらいいのかわからない」ということなのです。

   

そして、自分を責め続けているけれど、本当は癒されたい・・・。自分を責め続けてもいながらも、本当は許されたい・・・。助けたいけれど助けられない・・・。そのように、折り合って葛藤し模索しながらも、生きていく姿のなかに美しさがあることに気づきます。

   

美しさとは、悲しみを克服したり、暗さを乗り越えようとしたりするのではなく、悲しみを悲しみとして、暗さは暗さとして、抱えながら、抱きしめながら生きていくことだと感じています。

   


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