幼児期にバイリンガル環境で育てても、子どもが混乱しない理由

投稿日(Posted on): 2023年9月14日 | 最終更新日(Last Updated on): 2023年12月6日 by 河野傑

   

英語に関する早期教育やバイリンガル教育に対する誤解のひとつに、「幼児期の早い段階から2つの言語(またはそれ以上)を学ぶと、子どもが混乱するからよくない」というものがありますが、本当にそうなのでしょうか。カミンズの2言語相互依存説という理論をもとに、どのような接し方がいいのか考えてみました。

   

英語に関する早期教育やバイリンガル教育に対する誤解のひとつに、「幼児期の早い段階から2つの言語(またはそれ以上)を学ぶと、子どもが混乱するからよくない」というものがあります。さらに、「第一言語である日本語の基礎がしっかりしていない状態で、第二言語を身につけようとするのは、第一言語すらおろそかになってしまう」

   

一見すると、もっともらしいです。日本では、「英語」が、コミュニケーションとしての「言葉」というよりも、学校で学ぶ「試験」として認識されてきた影響もあるかもしれません。例えば、実森(2018)では、「学習とは、経験によって生じる比較的永続的な変化のことをいう」としたうえで、「上手なシュートとか流暢な英会話のように行動として外からはっきりわかる・・・」と記しています。ここからもわかるように、学習心理学では英会話はスポーツと同様に「行動」として学習されるものであると理解されています。スポーツの上達も英会話も、身体的な練習や知識を得て、記憶することが重要になります。

   

しかし、「第二言語を身につける」ということは、習い事のように「英会話」を学習して上達するプロセスと同じなのでしょうか。

   

幼児期に第二言語を身につけようとすると、第一言語と混乱してしまうと考えてしまう理由のひとつには、言葉は記憶して学習するもの、知識概念は翻訳して理解されるものと考えられていることにあるようです。この背景には、行動心理学でいう「干渉」があります。干渉には2つあります。順向干渉と逆向干渉です。幼児期に言語を獲得する過程で、最初に触れる母語が、後で学ぶ第二言語に干渉する順向干渉が生じる。一方、最初に獲得する母語が、後で獲得する第二言語の干渉を受ける逆向干渉が生じるというわけです。

   

このようにして、両言語が不完全に学習されてしまうことが、「2言語を同時に学ぶと混乱する」とされる論拠のひとつだと考えられます。

   

ここで、カミンズによる2言語相互依存説という理論があります。この2言語共有説について、近藤ら(2019)では、「全く別の言語であっても根底に共通する共有面があり、一方の言語を強化すると、もう一方の言語も強化される」と説明しています。この理論では、第二言語は、完全に第一言語の上にありません。第二言語は、第一言語を完全に基礎としているわけではありません。二つの言語を同時に獲得するにあたって、干渉する部分はあるものの、実のところ、共有する部分は大きいと言えます。

   

共有されるということは、つまり翻訳されているわけではありません。ですから、理解した知識が両言語間を(翻訳して)行ったり来たりするわけではありません。「混乱している」ように受け取られるのは、両言語の表現方法の違い(例えば、「”来る”と”行く”」「数え方」)のアウトプットの機会が不足しているためのようです。言葉の使われ方や表現方法を教えること、適切な表現方法を観察できるような機会や環境を提供することなどによって、少しずつすでに理解して持っている知識を適切に表現できるようになります。

   

参考文献

・実森正子・中島定彦 著 学習の心理 ―行動のメカニズムを探るー 2018 サイエンス社

・近藤ブラウン妃美・坂本光代・西川朋美 編 親と子をつなぐ継承語教育 日本・外国にルーツを持つ子ども 2019 くろしお出版


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP