罪悪感にとらわれる日々
仕事も育児も頑張っているのに、なぜか満たされない・・・」そんな気持ちになることはありませんか?
仕事でどれだけ頑張っても、「今日も子どもと十分に過ごせなかった」という思いが心に残る。
そして、育児に時間をかけても、「仕事がすすまなかった」と気になってしまう。
このように、人は、ポジティブな出来事よりも、ネガティブな出来事のほうを強く記憶する傾向があると言われています。これがネガティビティ・バイアスです。
このように、「できていないこと」ばかりに目を向けてしまうと、どんなに頑張っても満たされず、罪悪感が募り、自己否定につながるのです。
「子どもに寂しい思いをさせているのでは?」「仕事を優先している自分はダメな親では?」「自分は愛情が足りないのでは?」
そして、罪悪感を軽減するために無理をしてしまい、仕事と育児の両方で疲弊してしまうのです。
仕事と育児のバランスが難しい理由
「朝は子どもを送り出す準備に追われ、仕事が終わったら夕飯の支度。ようやく子どもと話せる時間ができたと思ったら、疲れていて、つい怒ってしまう」
仕事、育児そして家事の両立は、まるで、次々と投げられるボールを落とさないように必死で追いかけているジャグリングでようです。
ひとつに集中すると、もうひとつがおろそかになってしまう・・・。
仕事のウェイトを重くすると、育児や家事に関わる時間が足りないと感じる。
育児に時間を割くと、仕事の責任が果たせていないように思える。
精神科医・心理学者のアーロン・ベック(Aaron T. Beck)は、こうした非現実的な思考パターンを非機能的認知と呼びました。認知行動療法(CBT)では、ストレスにつながるこのような思考にアプローチしています。
例えば、次のような考え方に、私たちは知らないうちにとらわれてしまっているかもしれません。
- 白黒思考(All-or-Nothing Thinking):「仕事も育児も完璧にこなさなければならない」
- 過度の一般化(Overgeneralization):「子どもと十分に過ごせなかったから、ダメな親だ」
- すべき思考(Should Statements):「親ならば常に子どもを最優先すべきだ」
- 自己関連づけ(Personalization):「子どもが機嫌が悪いのは、私のせいかもしれない」
こうした思考にとらわれると、どれだけ努力しても、「どちらも十分にできていないのでは?」という罪悪感が募ってしまうのです。
さらに、日頃、子どもに関われる時間が足りていないと思っていると、「せっかく時間を作ったのだから、有意義に過ごさなければ」、「楽しい時間にしなければ」というプレッシャーが強くなります。
すると、子どもとの時間がいつの間にか『やらなければならない義務』になってしまい、心から楽しめなくなってしまうのです。
このように、大切な楽しい時間が、義務や課題をこなすだけの時間になってしまい、親子の関わりが表面的なものなってしまい、悪循環に陥ってしまいます。
私は、仕事が立て込んでいると、どうしても育児に割ける時間が短くなってしまい、『今週も子どもとあまり遊べなかったな』と自己嫌悪に陥ることがよくありました。
ある日、子どもが学校の作文で。「土よう日にキャッチボールをしたいです。いっしょにやろうね」と書いているのを見つけました。
それを読んだ瞬間、心の中にチクリとしたものを感じました。
「もっと時間を作ってあげられたらよかった」と、申し訳なさが込み上げました。
でも、ふと気づいたのです。
子どもが小さいころは『今すぐ遊びたい!』とせがんできたのに、今は『週末にやろう』と未来の予定を考えられるようになったことに気づきました。
『したいことを少し先延ばしできるようになったんだな』『予定を立てられるようになったんだな』『約束の概念がわかってきているんだな』と、新しい成長が見えたのです。
私はハッとしました。
『関わっていない時間でも、子どもはたしかに成長している』 ということに。
それまで、子供と過ごせなかった時間=親としての失敗だと考えていました。
でも、関わる時間の質も子どもの成長とともに変化していたのです。
それからは、『平日は仕事が忙しくても、週末は一緒に過ごす時間を増やそう』と決めました。
「完璧でなくても、できる範囲でいいから、そのできることを大切にしていこう」と考えるようになりました。
すると、不思議なことに、気持ちが少し軽くなりました。
仕事と育児のバランスを取るのは難しいと思ってしまうのは、ごく自然なこと。
でも、子どもは、思っている以上に成長しています。日々成長しています。
「関わる時間の量」だけに目を向けるのではなく、今できていることに目を向けて、今の子どもの成長に合った「関わり方」を考えることが、両立の鍵なのかもしれません。
このような、物事の見方や解釈を変えることで、認知や感情の捉え方を変化させる心理的技法をリフレーミングと言います。
特に、ストレスや葛藤を感じる状況を新しい視点で捉え直すことで、より適応的な考え方や行動を促します。
リフレーミングは、心理療法やコーチング、認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)などの領域で用いられ、固定化した思考パターンを柔軟にするための重要なスキルとされています。リフレーミングは、**認知行動療法(CBT)**における「認知の再構成(Cognitive Restructuring)」の技法のひとつです。
私たちは、出来事そのものではなく、それをどう解釈するかによって感情が決まるという認知モデルに基づいています(Beck, 1976)。
「短い時間でも、しっかり向き合うことで愛情は伝わる。」
このように考えられるようになると、仕事と育児の両立が、少しずつラクになっていくかもしれません。
リフレーミングの重要性
子育てと仕事の両立も同じです。
リフレーミングができていないと、「仕事と育児の両立=大変で苦しいもの」となりがちです。
ですが、視点を変えることで、「仕事も育児も楽しめるもの」に変わる可能性があるのです。
「ずっと長く関われなくても、子どもはちゃんと成長する。」
「短い時間でも、しっかり向き合うことで愛情は伝わる。」
このように考えられるようになると、仕事と育児のバランスを取ることが、少しずつラクになっていくのかもしれませんね。
今日一日を振り返り、できなかったことではなく『できたこと』を3つ書き出してみるといいかもしれません。
仕事でどれだけ頑張っても、「今日も子どもと十分に過ごせなかった」という思いが心に残る。
育児に時間をかけても、「仕事が遅れてしまった」と気になってしまう。
こうした感覚に戸惑うことは、ごく自然なことです。
視点を変えるリフレーミングで、仕事と育児のバランスを取ることで、少しずつラクになっていくのかもしれません。
「できたこと」に目を向ける。完璧を目指すのではなく、「その日の小さな達成」を振り返ることが大切です。
今できているバランス」を見つければいい。
まとめ
子どもの成長や親自身の環境変化によっても、「ちょうどいいバランス」は変わっていくもの。
そのときどきの状況に合わせて、「ちょうどいいバランス」は変わっていくでしょう。
「できるようにならなければいけない」ものではなく、今の自分と子どもに合った形を見つけていくプロセスです。
焦らず、一歩ずつ、今の自分のリズムを大切にして、ちょうどいい」バランスを見つけながら、進んでいきましょう。
あなたが思っている以上に、子どもはあなたの愛情を感じています。今日のあなたの頑張りは、必ず子どもの心に届いています。
参考文献
- Baumeister, R. F., Bratslavsky, E., Finkenauer, C., & Vohs, K. D. (2001). Bad is stronger than good. Review of General Psychology, 5(4), 323-370.
- Beck, A. T. (1976). Cognitive Therapy and the Emotional Disorders. New York: International Universities Press.
- Beck, J. S. (2011). Cognitive Behavior Therapy: Basics and Beyond. Guilford Press.
- 伊藤絵美. (2022). 世界一隅々まで書いた認知行動療法・認知再構成法の本. 遠見書房.
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