1. もっと関わりたいのに…。そんな葛藤、ありませんか?
企業の組織論では、心理的安全性が高い職場ほど、「社員が新しいアイデアを出しやすい」「リスクを恐れず試行錯誤できる」「結果として成長やイノベーションが生まれる」といったメリットがあると言われています。
「心理的安全性」は、「間違えても大丈夫」「自分の考えを自由に言える」「試してみてもいい」という安心感がある環境のことです。
では、この「心理的安全性」が子育てにどう関わるのでしょうか?
例えば、仕事が終わってヘトヘトの夜。たった10分だけでも子どもと関わりたい。そんな時を思い浮かべてみてください。
でも気づけば、「歯を磨いたの?」「もう寝る時間だよ!」そんな確認や指示ばかりになってしまう。
子どもと楽しく過ごしたいのに、気づけば「管理モード」になってしまう。そんな自分にモヤモヤしたことはありませんか。
あるいは、子どもの成長を応援したいと思うあまり、つい指導やアドバイスをしすぎていませんか。
たとえば、子どもがブロックで何かを作ったとき、「すごいね!上手にできたね!」と褒めるけれど、「こうすれば、もっとかっこいいよ」とアドバイスしたり、さらには、親がその出来栄えに満足できなくて、こうした方がいいと勝手に直してしまったり・・・・・。
子どもからすると、「もっとすごいものを作らないといけないのかな・・・」と、プレッシャーを感じてしまいます。
親の言うとおりに作ることが正解だと思い、自分でこれがいいと決めることができなくなって自己肯定感が低くなってしまうかもしれません。
試行錯誤して自分なりにじっくりと取り組む機会を失ってしまいます。
一言断っておきますが、親は良かれと思って(熱心に)教えているのです。努力しているのです。
2. 自分自身の気づきの重要性
気づける環境の大切さを伝えている言葉は他にもあります。
この場合、気づくのは子どもです。子どもが気づくのです。
いくら良い機会を与えても、本人がやる気にならなければ意味がないことのたとえとして、「馬を水辺に連れて行けても、水を飲ませることはできない」という言葉があります。
成果を得たいなら、すぐに結果を求めるのではなく、まず環境を整えることが大切という「木を植えるなら、まず土を耕せ」という農業の知恵もあります。
親が大切にしたいことは、「子どもの才能を見つけること」ではなく、「子どもが自分で気づくまで環境を整えることなのでしょう。
3. スター発掘型子育てのリスク
子育てと仕事の両立に忙しいお父さんにとっても同じです。
親は、子どもをよく観察し、少しでも才能の片鱗が見えると、「これが得意かも!」、「この道を進めば成功するかも!」、「せっかくだから伸ばしてあげたい!」と考えがちです。
たとえば、親が子どもを見ていて「最近足が速くなってきたね!」と思ったら、「この調子なら、リレーの選手に選ばれるかもね!」と言ったり。
あるいは、「お手伝いで料理してくれるの、助かるよ!」というだけで十分なのに、「こんなに上手なら、将来はシェフになればいいよ!」と言ったり。
これは一見、子どもを励ましているように見えます。でも、才能の芽を見つけたとしても、ハードルを上げたり、答えを出したりする必要はありません。
こうしたハードルを上げるような言葉が繰り返されたり、親が子どもの代わりに答えを出すような言葉が繰り返されたりすると、子どもは親が期待する道を進まないといけないとプレッシャーを感じたり、自分で考える機会を失ってしまいます。
「あなたの才能を見つけてあげられなかったね」
ある日、私の親がこう言ったのを覚えています。
私の親は、教育に熱心で、たくさんの教育本を読み、私をさまざまな習い事に通わせ、自然教室などの体験にも関心がありました。
「なんでもいいから続けてほしい」とも言われたことがあります。
確かに、そのとおりです。
職業につながる何か、お金を稼げる何かに関心を持ち、それを磨き続ければ、何者かになれそうです。
それでも、「親が見つけてあげなきゃ」、「今がチャンス」と焦る必要はありません。
スター発掘型で、成功率を上げようとして「当てよう」とすると、子どもは試行錯誤の機会を失いやすいです。
一発でうまくいく道を探すと、子どもが自分で試して、失敗しながら学ぶ機会が減ってしまうのです。
結果として、子どもは「親に決めてもらう」ことに慣れてしまい、自分で考えて行動する力が育ちにくくなってしまいます。
4. 伴走者として、一緒に歩む
忙しい日々の中で、どうしても「効率の良い子育て」を求めたくなることがあります。
「限られた時間で、できるだけ良い影響を与えたい」、「せっかくなら、子どもの才能を見つけて伸ばしてあげたい」そんな思いから、つい「当てよう」としてしまうことがあるかもしれません。
しかし、子育てはスターの発掘やスカウトではありません。
「当てようとしないこと」 が、結局は子どもにとって最良の道になるのかもしれません。
心理学者 河合隼雄 は、「何もしないことに全力を傾注する」 という言葉を残しています。
さらには、「もともとそういう可能性をその人が持っている」、「その人がもともと持っているものが自然と出てくるのを待つ」、「大切なのは、ただ待っているだけじゃない」、「希望をちゃんと持っている」とも言っています。
これは、焦って答えを与えず、子ども自身が「自分はこういうことが好きかもしれない」と気づくのを待つことの重要性につながります。
それが、企業における心理的安全性で言われるように、「間違った時に戻れる場所」につながるのではないでしょうか。
親の役割は、師匠ではなく、ともに試行錯誤する伴走者。
だから、子育ても「将来を当てること」、「何者かになること」にとらわれないようにしたいものです。
安心して挑戦できたり、じっくりと考えたり、取り組むなかで何かを感じられるような今を積み重ねていけたらと思います。
ゆっくり、じっくり、一緒に進んでいけばいいんです。
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