子どもが英語しゃべってと言われたとき:心理学と言語学の視点から


学校、保育園、あるいは公園のような環境では、異なる背景を持つ子どもたちが出会い、さまざまな言語や文化が交わる場面が多く見られます。

中でも、外国につながる子どもたちが直面する「英語しゃべって」という期待は、好奇心や興味からくるものかもしれません。

こうした場面での対応について、外国につながる子どもの親は、どうしたら適切に関わることができるのでしょうか。

社会心理学的視点:アイデンティティの構築

エリク・エリクソン(Erik H. Erikson)が提唱したアイデンティティ発達理論では、幼少期は「自分とは何か」を模索する重要な時期とされています。

この時期は、子どもたちは自身のルーツや言語能力を通じてアイデンティティを構築していく段階です。

外国につながる子どもが「英語をしゃべって」と言われる場面は、自身の背景が注目されることへの喜びを感じる場合もあれば、違和感や困惑を抱える場合もあります。

これは、彼らが「自分らしさ」をどのように受け入れ、また他者に伝えるかという課題に直面しているためです。

たとえば、社会的アイデンティティ理論(Social Identity Theory, Tajfel & Turner, 1979)は、子どもが所属するグループ(ここでは日本語話者や英語話者)が自尊感情にどのような影響を与えるかを示しています。

「英語を話す」能力が求められることで、ハーフの子どもが自分の文化的背景を肯定的に捉えられるよう支援する必要があるのです。

言語学的視点:コードスイッチングと多言語環境

コードスイッチング(code-switching)は、多言語話者が異なる言語間を行き来する現象を指します。

言語学者のジョン・ガンパーズ(John J. Gumperz)が広めたこの概念は、単なる技術的な切り替えだけでなく、話し手の文化的背景や状況適応能力を反映しています。

例えば、学校で「英語しゃべって」と言われた場合、ハーフの子どもはその場の文脈や相手の期待に応じてコードスイッチングを行う可能性があります。

ただし、この要求が負担となる場合もあります。例えば、バイリンガルであっても、言語の使用頻度や状況に応じて流暢さにばらつきがあることが一般的です。

この現象は「セミリンガリズム」(semilingualism)としても知られており、どちらの言語でも完全に流暢でない場合に起こる可能性があります。

子どもが「英語を話す」ことにプレッシャーを感じるのではなく、自分のペースで言語を使える環境を整えることが大切です。

実践的アプローチ:多文化共生の教育

バイロン・グッド(Byron J. Good)が文化心理学で強調したように、文化的背景や言語的多様性を理解することは、個人の心理的健康にとって重要です。

保育園や学校、公園などの場では、以下のような具体的なアプローチを採用することが有効です:

  • お互いの多様性を学ぶ時間を設ける クラス活動やグループ活動として、それぞれの子どもの家庭の文化や言語について紹介する時間を作ることで、全員が互いを理解しやすくなります。これにより、子どもたちは「違い」をポジティブに捉えやすくなります。
  • 言語的柔軟性を尊重する 「英語をしゃべって」と言われた子どもに対しては、「英語を話すことは特別だけど、みんなが分かる日本語でも十分に楽しく遊べるね」と伝えるなど、無理に対応しなくてもよいことを教える姿勢が重要です。
  • 保護者や教育者へのサポート 保護者や教育者には、多言語環境のメリットと課題についての知識を提供することが求められます。たとえば、ジム・カミンズ(Jim Cummins)の提唱した「言語相互依存仮説(Interdependence Hypothesis)」を活用し、母語の習得が第二言語の発達にも良い影響を与えることを説明することが有効です。

保護者への具体的なアドバイス

外国につながる子どもが健全に成長し、多文化環境で自信を持つためには、保護者の関わりが重要です。

  • 子どもの気持ちに寄り添う 子どもが「英語をしゃべって」と言われたときの気持ちをしっかり受け止め、「どんなふうに感じたの?」と優しく聞いてみましょう。その上で、「無理に話さなくても大丈夫だよ」と安心感を伝えることが大切です。
  • 日常の中で多文化を楽しむ 家庭で、英語や母国語の本を読み聞かせたり、歌を一緒に歌ったりすることで、言語に対する自信を育むことができます。また、異なる文化に触れることを楽しい体験として提供することで、自己肯定感を高めることができます。
  • 子どもに選択肢を与える 言語を使うかどうかは子ども自身に委ねる姿勢を持ちましょう。「英語を話してほしいと言われたけど、どうしたい?」と聞くことで、子どもが自分で決める力を育むことができます。

5. 結論:寄り添いと受け止めの姿勢

外国につながる子どもが多文化環境で健全に成長するためには、「英語をしゃべって」という期待に対して、応えなければならないと思いこんで英語をしゃべってみたり、ただ否定したりするのではなく、双方の子どもの気持ち、意思、そして友だち関係を理解することが重要です。

親がそのコミュニケーションや体験に共感的に関わっていくことが重要と言えそうです。

心理学と言語学の知見を活用することで、子どもたちが自らのルーツやアイデンティティを誇りに思いながら、多文化的な社会でのびのびと生きる力を育むことにつながっていくことでしょう。

また、保護者が日常生活の中で寄り添い、子どもの選択を尊重することで、彼らが多様な環境で自信を持って成長できる支援が可能になるのだと思います。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP