街灯の下で鍵を探す ”The streetlight effect“
“People often fall into the streetlight effect, searching for answers where it’s easy to look rather than where the truth actually lies.”
(人はしばしば街灯効果にはまり、答えを見つけやすい場所で探し、本当にあるべき場所では探そうとしない。)
1. 仕事と育児の両立に悩み、情報に振り回される毎日
「仕事も育児も頑張っているのに、うまくいかない気がする。」
「子どもと、もっと過ごすべきだったのでは?」
「仕事に集中できないのは、自分の努力が足りないせい?」
そんな風に、ぐるぐると考え続けてしまうことはありませんか?
仕事と育児を両立しようとすると、情報に敏感になりがちです。「○歳までに〇〇をすると頭が良くなる」「この習い事が将来のために重要」「親がこう接すると自己肯定感が高まる」といった育児本やネットの情報があふれています。
さらに、周囲の声も気になります。SNSでは、育児も仕事も完璧にこなしているように見える人がいて、「自分はダメなのでは?」と落ち込んでしまうことも。
このように、解決策のない思考を繰り返してしまう状態を「反すう思考」といいます。「考えすぎ」とも言えるこの反すう思考は、悩みを深めるばかりで、答えが出ずに私たちの心を重くします。でも、そこから抜け出す方法があるのです。
2. 「街灯の下で鍵を探す」――たとえ話から学ぶこと
ある公園の街灯の下で、何かを探している男がいました。
通りかかった人が「何を探しているのですか?」と尋ねると、男は「家の鍵を失くしてしまったので探しているんです」と答えます。
通行人は気の毒に思い、しばらく一緒に鍵を探しました。しかし、どれだけ探しても見つかりません。
ふと、その通行人が「本当にここで鍵を落としたのですか?」と訊くと、男はこう答えます。
「いや、鍵を落としたのはあっちの暗い場所なんですが、あそこは暗くて何も見えないので、光の当たっているここを探しているんです。」
いかがでしょうか。この話は、私たちの思考のクセを象徴しています。
例えば、「育児本やSNSの情報が全て正しい」と思い込んでしまうと、まるで「光の当たる場所」で鍵を探すようなもの。大事なのは、そこではなく「自分の子どもに合うもの」「自分の家庭に合うやり方」です。
3. 私が気づいた「自分の価値観」
大学生の時、私はインドのマザーテレサの施設「死を待つ人の家」でボランティアをしたことがありました。介護、洗濯、食事の介助などに没頭し、自分にできることを精一杯やっていました。
そんなある日、オーストラリア人のボランティア仲間から「他の場所へ旅行に行こう」と誘われました。「せっかくインドに来たのだから、観光も楽しむべきでは?」と言われ、一瞬迷いました。
でも、一晩考えて気づいたのです。「自分はなぜここに来たのか?」と。
私の目的は、観光ではなくボランティアでした。他の人が「こうしたほうがいい」と言うことよりも、自分が何を大切にしたいのかが重要だったのです。そのことに気づいた私は、旅行の誘いを断り、ボランティアを続けました。
結果的に、私は自分の選択に満足しました。他の人と同じ経験をしなくても、自分が「これで良かった」と思えたのなら、それが正解だったのです。
この経験は、育児や仕事にも通じるものがあると思います。
4. 「こうしたほうがいい」「こうあるべき」にとらわれず、自分の価値観を選ぶ
私たちは、社会や他人の価値観に影響されやすいものです。
育児本には「親がこうすべき」「子どものためにはこれが必要」と書かれている。
SNSでは「こうすれば子どもが幸せになる」と誰かが発信している。
でも、本当に大切なのは「自分の子どもにとって、私にとって何が大事か?」ということです。
反すう思考から抜け出すためには、「今何をすれば鍵を見つけることができるのか?」と自問することが大事です。
- 育児本の方法が合わなくても、別のやり方を探せばいい
- 仕事と育児の両立が大変なら、「できる範囲でいい」と考える
- 他人のやり方と違っても、「これがうちのやり方」と割り切る
情報や他人の意見に振り回されるのではなく、「私にとって大切な価値観は何か?」を軸にすることが、仕事と育児のバランスを取る上で重要なのです。
5. 日々の中で価値観に沿った行動を増やそう
反すう思考にとらわれそうになったら、「今自分ができる行動は何か?」と、自分に問いかけてみてください。
そして、育児本や他人の価値観ではなく、自分の価値観を大切にして、それに沿った行動を少しずつ増やしていくこと。
- 育児本の情報を「参考」にするけれど、すべてを鵜呑みにしない
- 仕事と育児の両立で悩んだときは、「私にとって大切なこと」を思い出す
- SNSの育児情報と比べるのではなく、「うちの家族に合うやり方」を探す
情報があふれる時代だからこそ、周りと比べすぎずに、自分なりのペースで進むことが大切です。
すべてを完璧にこなす必要はなく、できる範囲でやれた自分や子どもを認めること。
たとえ、他のみんなと同じようにできなくても、それは決して遅れや間違いではなく、あなたなりにやその子なりに頑張った証なのです。
参考文献
- Watkins, E. R. (2016). Rumination-Focused Cognitive Behavioral Therapy for Depression: A Treatment Manual. Guilford Press.
- Beck, A. T. (1979). Cognitive Therapy and the Emotional Disorders. Plume.
- E.Rワトキンス著. 大野裕監訳, 梅垣祐介・中川敦夫訳 (2023). 『うつ病の反すう焦点化認知行動療法』岩崎学術出版社.
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