
過去と向き合うときに生まれる感情
罪悪感や後悔は、過去に根ざした感情です。
「過去は変えられない。変えられるのは未来と自分」
こうした言葉をよく耳にします。
しかし、「変えられない過去」にしばしば苦しめられる私がいます。
「なぜ、あんなことをしてしまったのだろう」
「なぜ、あの時あのように言ってしまったのだろう」
これは、過去の出来事を変えようとしているのではなく、「変えられないもの」をどうにか受け止めようとして葛藤しているのです。
罪悪感と後悔の心理学的理解
心理学者ジャン・ピアジェは、人が出来事を意味づけるとき「自己中心性(egocentrism)」から抜け出すことが必要だと述べました。
過去を振り返るとき、私たちは「当時の自分」を切り離して考えるのが難しく、「なぜあんな選択をしたのか」と現在の視点から責めてしまうのです。
また、ロイ・バウマイスター(Baumeister, 1994)は罪悪感を「社会的な絆を維持するために働く感情」と定義しました。
罪悪感は不必要に自分を責める苦しみを生みますが、一方で「次はどう行動するか」を考えるきっかけともなります。
感情は「生きている証」
感情を無視しようとすればするほど、心の中で強く存在を主張してきます。
心理学者ユングも「抑圧されたものは形を変えて現れる」と語りました。
勉強や仕事に集中したいのに罪悪感に心を奪われるのは、その感情が「あなたに大切なことを伝えようとしている」からかもしれません。
言葉を探すことの意味
私自身も、罪悪感や後悔にとらわれていた時期、本やインターネットで「自分の気持ちを言い表す言葉」を探していました。
心理学者ヴィクトール・フランクルは「人間は意味を求める存在である」と言います。
言葉を与えることで、感情に「意味」を見出し、そこから回復の道を歩むことが可能になるのです。
似た経験を乗り越えた人の言葉や物語に触れると、「これだ」と思える瞬間が訪れます。
それは、自分の感情に新しい視点を与え、「罪悪感を抱える自分を否定せずに認める」第一歩となります。
セルフ・コンパッションの視点
近年注目されているクリスティン・ネフの「セルフ・コンパッション(self-compassion)」は、こうした場面に大切な考え方です。
- 自己への優しさ(自分を責めすぎない)
- 共通の人間性(誰しも失敗や後悔を経験する)
- マインドフルネス(感情を否定せずにあるがまま受け止める)
これらは、罪悪感や後悔にとらわれすぎず、自分を肯定する心理的土台を育ててくれます。
まとめ
罪悪感や後悔は、過去にとどまる感情でありながら、未来の自分を形づくるきっかけともなり得ます。
大切なのは「悪い自分を否定すること」ではなく、「悪い自分も含めて受け止めること」。
そのとき初めて、罪悪感は「前へ進むためのエネルギー」に変わるのです。
参考文献
- Baumeister, R. F., Stillwell, A. M., & Heatherton, T. F. (1994). Guilt: An interpersonal approach. Psychological Bulletin, 115(2), 243–267.
- Frankl, V. E. (1946). Man’s Search for Meaning.
- Neff, K. D. (2011). Self-Compassion: The Proven Power of Being Kind to Yourself.
- Jung, C. G. (1959). The Archetypes and the Collective Unconscious.
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