1. 親が抱くつぶやき
「子育てに向いていない」「親失格だ」「こんなはずじゃなかった」「もっとこうしてあげればよかった」
子育てや夫婦関係のなかで、こうした言葉が心をよぎることは珍しくありません。
これは誰にでも起こりうる自然な感情です。
心理学的にみると、ここには 後悔(regret)、罪悪感(guilt)、そして 恥(shame) が入り混じっています。
- 後悔は「もっとこうすればよかった」という過去の行動に対する思い。
- 罪悪感は「子どもや家族に悪い影響を与えた」という責任感。
- 恥は「自分は親として、あるいは人として欠陥がある」という存在レベルの自己否定。
罪悪感をそのまま抱え込むと、過去に縛られ、現在や未来に向かう力を失いやすくなります。
2. 弱さを受け止めるということ
心理学者ブレネー・ブラウン(Brené Brown)は「脆弱性(vulnerability)」という概念を通じて、人が自分の弱さを受け入れることの重要性を説いています(Brown, 2012)。
彼女によれば、脆弱性を受け入れることは失敗や恥をなくすことではなく、他者とのつながりや本当の勇気を育む基盤になるのです。
つまり、罪悪感や後悔は「克服して消す」ものではなく、「弱さの一部」として認めることが大切です。そこから人は前に進む力を取り戻せます。
3. セルフ・コンパッションと共通の人間性
セルフ・コンパッション(Kristin Neff, 2003)は、「自分に対して思いやりを向ける態度」として近年注目を集めています。その中核にあるのが 共通の人間性(common humanity) です。
これは「失敗や苦しみは自分だけのものではなく、誰もが経験する人間として普遍的な体験である」と理解する視点です。
親としての罪悪感も、「私だけが欠陥を抱えているのではない」と気づくとき、心は軽くなります。
4. 罪悪感を力に変える
罪悪感を否定するのではなく、
- 「あのときの自分は一生懸命だった」
- 「同じように悩む親はたくさんいる」
- 「だからこそ、これからできることに目を向けよう」
と受け止めることが、セルフ・コンパッションの実践です。弱さを認めたとき、人は安心できる場所を得て、再び歩み出す力を取り戻します。
参考文献
- Brown, B. (2012). Daring Greatly: How the Courage to Be Vulnerable Transforms the Way We Live, Love, Parent, and Lead. Gotham Books.
(邦訳『本当の勇気は「弱さ」を認めること』2013年、講談社) - Neff, K. D. (2003). Self-compassion: An alternative conceptualization of a healthy attitude toward oneself. Self and Identity, 2(2), 85–101.
- Tangney, J. P., & Dearing, R. L. (2002). Shame and Guilt. New York: Guilford Press.
コメントを残す