
人は誰しも、落ち込んで「ダメだ」「できない」と自分を責めてしまうことがあります。
どれだけ考えても結論はネガティブな方向へ傾き、気持ちはどんどん重くなる——そんな経験は、あなただけのものではありません。
周囲から「こうすればいい」とアドバイスをもらっても、心の中では「わかっているけど、できない」とつぶやいてしまう。
そんな時こそ必要なのは、「自分を変えること」ではなく、「そのままの自分を愛すること」かもしれません。
「役に立たない考え」を手放すということ
心理学者アーロン・ベックは、ネガティブな自動思考が心の苦しみを深めると指摘しました。
「〇〇だからダメなんだ」という考えは、一見すると自分を律しているように思えますが、実際には自分を縛りつけ、疲れさせてしまうこともあります。
特に真面目な人ほど、自分を責めたり否定したりすることで「これを教訓にしよう」と未来の役に立てようとします。
けれども、その“役立てようとする気持ち”が強すぎると、かえって自分を追い込んでしまうことさえあるのです。
だからこそ「役に立つ」「役に立たない」と白黒はっきり分けようとするのではなく、こう問いかけてみてください。
- 今の自分を守ってくれているだろうか
- これ以上、自分を苦しめていないだろうか
大切なのは完璧な仕分けではなく、「この考えを持ち続けて、私は少しでも安心できるだろうか」と自分の心に耳を澄ませることです。
自分を愛するというセルフケア
心理学者クリスティン・ネフが提唱する「セルフ・コンパッション(自分への思いやり)」は、落ち込んだ時の大きな支えになります。
それは「甘やかし」ではなく、「自分を大切にする勇気」です。
エーリッヒ・フロムも『愛するということ』の中で、「愛とは対象の成長と幸福を願う能動的な関わりである」と述べています。
その対象には、もちろん自分自身も含まれます。
あなたへの小さな提案
もし今、あなたが「ダメだ」と自分を責めているのなら、ほんの少しでいいので立ち止まってみてください。
そして深呼吸をひとつ。
ノートに思いつくままを書き出しながら、「この考えは、私を守っているかな?」とそっと問いかけてみるのです。
たとえすぐに答えが見つからなくても大丈夫。あなたの中で、本当に大切なものは、形を変えても必ず残ります。
終わりに
落ち込んでしまう自分を否定する必要はありません。
「そんな自分も愛していい」——そう思えた瞬間、あなたはもう回復の道を歩み始めています。
どうか今夜は、自分に優しい言葉をひとつかけてあげてください。
「ここにいていい」「私は大丈夫」
その一言が、きっとあなたの心を少しだけ温めてくれるはずです。
参考文献
- A. T. Beck (1976). Cognitive Therapy and the Emotional Disorders.
- Kristin Neff (2011). Self-Compassion: The Proven Power of Being Kind to Yourself.
- Erich Fromm (1956). The Art of Loving.
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